スチュワーシップ・コードができた経緯や目的
スチュワードシップ・コードは、機関投資家の支配力を活かした、ソフト・ロー(Soft Low=国際法上拘束力が緩やかな規範・実質的に法的拘束力があるような非法的規範)のことです。
企業経営の収益力向上・企業不正の監視を目的にしています。イギリス連合王国発祥の制度で国際標準に至っています。
2008年9月にアメリカ合衆国の大手投資銀行、リーマン・ブラザーズ・ホールディングスが経営破綻しました。一般的に『リーマン・ショック』と言います。
この破綻事件が発端となり、連鎖的に世界的金融危機が生じました。
アメリカでは、2001年頃から、低所得者向けの住宅ローン債権を販売するハイリスクな商品売買によって、金融バブルが生じました。
2007年に大手銀行のニューセンチュリー・ファイナンシャルが破綻し、続いて大投資会社ベアー・スターンズが破綻しました。
その後のリーマン・ブラザーズは売買を継続し、1年後にバブルが崩壊して経営破綻したのです。リスク管理をしっかり実施していれば、世界的金融危機は回避されたと言われています。
日本国内でも三菱自動車・日産自動車の出荷時検査に不正がありましたし、東洋ゴム工業は品質の偽装、神戸製鋼所も品質偽装が発覚しました。
企業は、収益向上が最重要目標ですが、製品規定の偽りが判明しなければ続けて良いことは絶対に有り得ません。バレずに隠れて偽装工作をするリスクは、想像し得ない大きな信用を一気に失います。
スチュワードシップ・コードの7つのガイドライン
スチュワードシップ・コードには、7つのガイドラインがあります。ちょっと難しいかもしれませんが、ガイドラインですので簡単に紹介をします。
受託者(機関投資家)の責任の果たし方の方針公表すること
投資家はマナーを守り投資することです。インサイダー取引・マネロンは論外です。
利益相反の管理に関する方針公表すること
利益相反行為(りえきそうはんこうい)は、一方の利益になると同時に、他方への不利益になる行為を言います。WinWinの関係ではなく、WinLoseの関係に陥ることです。
投資先企業の経営モニタリングをすること
会社法上、株主が、自らまたは株主総会を通して経営をモニタリングする権利があります。投資した企業に不正やごまかし・偽装が無いかモニタリングできます。
受託者(機関投資家)活動強化のタイミングと方法のガイドラインの設定をすること
株式配当を得ることは投資家にとって大切な報酬です。投資家が連携してガイドラインを設定・厳守します。
他の投資家との協働をすること
個人の投資家が単独で諸問題の提起をすることは、大変な労力を要します。投資家が連携し、諸問題の提起をすることで、多くの投資家の賛同を得ることも可能になります。
議決権行使の方針と行使結果の公表をすること
6月下旬は株主総会が集中して開催されます。株主総会の議事進行は非公開のケースがあります。特に近年に不正・偽装で社会問題となった企業の議事内容は広く公開すべきです。ガイドラインは議決権行使と行使結果を公表すると定めています。
受託者(機関投資家)行動と議決権行使活動の定期的報告をすること
投資家は、株主総会で議決された内容が目標通りに実行されているか否かを定期的な報告を受けることで、内容確認と進捗状況確認が可能になります。
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スチュワードシップ・コード を日本が導入した経緯
日本でも、スチュワードシップ・コードを導入していますので、導入することになった経緯を説明します。
2010年にイギリス連合王国で定義された内容を参考にして、何とも遅い4年後の2014年に金融庁が日本版スチュワードシップ・コード(「責任ある機関投資家」の諸原則)を制定して公表しました。
公表後に、多くの機関投資家が賛同しました。
機関投資家は自社の行動方針を企業Webサイトで表明しています。
日本版スチュワードシップ・コードは、他国と同様に法律ではありませんから、法的拘束力はありません。機関投資家が適宜にスチュワードシップ・コード責任を果たし、経済全体の成長に繋がります。
現在、日本版スチュワードシップ・コードの受入れ表明を行なっている機関投資家の企業は160社に広がっています。
まとめ
スチュワードシップ・コードは、銀行・証券会社・保険会社・年金基金の機関投資家に対して、投資先企業の中長期先の成長を 促進するために要求される行動規範です。行動規範とは、社会規範・道徳・倫理・ルール・慣習の体系です。
スチュワード(steward)とは、執事・財産管理人を意味します。
機関投資家が投資した企業の経営の不正・偽装が無いように働きかける意味が込められています。和訳すると「機関投資家の行動指針」「機関投資家の行動原理」「機関投資家の責務・責任」となります。
スチュワードシップ・コードは7つの原則で構成されており、法的拘束力に縛られない自主規制です。
コンプライ・オア・エクスプレイン(Comply or Explain =自主規制を遵守(コンプライ)しなさい。厳守しなければ、その理由を説明(エクスプレイン)しなさい)として、各原則を順守するか、順守しなければ理由を明確に説明するよう求められます。
スチュワードシップ・コード用語を使用する業界は、銀行・証券会社・保険会社・年金基金の機関投資家です。
特に証券関連業界用語集に掲載されています。
スチュワードシップ・コードを導入した機関投資家は、法的な拘束力がありませんが、投資した企業に不正・偽装が無いよう厳しく監視している姿勢を示し、投資した企業への抑止効果があります。